[ログ] 『異次元から来る焔』
- Toma Higa
- 1月10日
- 読了時間: 4分
【第**世界 惑星**の記録】
技術が発展しても文明の終焉を免れることはできない。ある世界では「地球」と呼ばれる惑星に非常によく似た惑星の巨大な文明社会は、隕石群の衝突によって終焉を迎える。
隕石衝突の瞬間、ある生命体(後に「イーライ・セイタン」を名乗る怪物、以下「イーライ」とする)から「何か」が分離したことを観測。世界の存続に関わる可能性があるため、追跡を開始する。
第**世界からは存在を認識できなかったため、別世界へ弾き飛ばされたと推測、世界を跨いでの追跡へ切り替える。
第*世界、前述した「地球」に「何か」が弾き出され、漂着したことを確認、そしてそれが「イーライ」の魂の断片であることが判明した。
隕石衝突の衝撃と別世界へ弾き出されたことにより身体情報や記憶などといった「記録」に甚大な破損が見られる。
とはいえ、元は文明終焉以前に大量の生命を奪った生命体である上に、別世界の存在は元々あるべきではない存在であって異物として世界に不整合が生じる可能性が高い。場合によっては「何か」を排除する必要があると判断し、追跡を継続することとする。
「何か」は物質としての肉体を「ヒューマノイド」という形で獲得しているが、情報の欠損は甚大であり、存続に十分な要件を満たしていないと判断。当存在は不整合の起因になる可能性は極めて低いとして追跡を終了する。
[ここで記録は終了している]
【20xx年◯月**日】
研究所の片付けを行なったところ、倉庫から記録にないアンドロイドを発見した。形態はヒトに似ているが手脚はヒトとは異なった形状をしており、尾骶骨にあたる部位からは尾のように長いケーブルが接続されていた。
誰が製作したかわからないがおそらく退所した先輩たちが製作し、放置されたものだろう。廃棄としてもよかったが、個人的に興味を惹かれたため修理及び完成をさせたいと思う。
素体の損傷が激しいため、ひとまず私の研究・製作室へ運んだ。
【前回の日付から数日】
修理は非常に難航している。なにせ機構がヒトに酷似しているどころか一部は生体パーツを扱っていたのである。これはアンドロイドではない、ヒューマノイドやサイボーグの類だ。
修理を続けている最中、突然起動し自律した。理由は不明。研究者を名乗っておきながら原因を推測できないことに一抹の悔しさを感じる。
ヒューマノイドーー仮に「彼」とするーーは自分に何が起きたかを確かめるように両手を眺め、部屋を一瞥した。
彼は私を認識するとひどいノイズの混じった音声で人の名前らしきものを言って手を伸ばしてきた。
彼の手に触れると彼は嬉しそうな顔をした。どうやら感情を模したプログラムまで備わっているようだった。
【さらに数ヶ月後の日付】
修理と並行してコミュニケーションをとることを試みる。
彼は普段、大人しく感情の起伏のようなもが無いが音楽に対して非常に好意的な反応を見せた。音声周りの修繕まで手が回っていないため、ノイズが混じった声であるが「歌う」ということに強い好意を持っているようであった。
修理とコミュニケーションを今後も続けていくこととする。
【数年後の日付】
日に日に戦火は激しくなり、職員たちは兵器の製造に駆り出された。
私は要請を拒否し続けた。技術を生命を奪うことに使いたくないこともあったが、彼の様子が気がかりだったからだ。
音声も見た目も限りなくヒトに近いところまで修理していたのだが、私に協力要請が届いた時から音声にノイズが混じりはじめ、苦痛に悶えるような様子がしばしば見られるようになった。
彼を見捨ててはならない。直感がそう告げている。全くもって論理的ではないが、今はそれに従おうと思う。
【数日後の日付】
爆撃に遭った。
被害は甚大で死傷者も多い。
私も浅くはない傷を負っている。
彼がひどく狼狽していた。
爆発音か、それとも私や職員の血を見たからか。
ここをすぐに離れなければならない。そうしなければ私は死ぬ。
自分の生命が惜しいわけではないが、彼を遺してしまったら彼はどうなる?
狼狽して苦しむ姿の中に恐ろしい敵意と殺意を感じた。このままでは多分、絶対、彼は殺戮兵器と化すだろう。そんなこと誰も、まず私が望んでいない。エゴの塊だろうとなんだろうと避けたいことだ。
どこかへ、とにかく戦火から遠いどこかへ、逃げることとする。
赤熱した手を掴んだ時、彼にどこか助けを求める人間のような表情を見たような気がした。
[これより後の記録は復元不能だった、以上]